東京地方裁判所 昭和27年(ワ)7603号 判決 1955年2月04日
原告 東北興業株式会社
被告 東北亜鉛鉱業株式会社 外四名
参加(引受)人 内藤英雄
主文
一、(1) 原告と被告東北亜鉛鉱業株式会社との間において、原告が別紙<省略>第一目録記載の株式について株主権を有することを確認する。
(2) 被告東北亜鉛鉱業株式会社は、別紙第一目録記載の株式について原告名義に書換をせよ。
(3) 被告東北亜鉛鉱業株式会社は、原告に対し、同会社の昭和二七年三月五日なされた取締役会決議に基いて発行する新株(額面五〇円の普通株式、発行価額五〇円)中七万二千株について商法第二八〇条ノ五第一項に定める通知をなし、且つ、右新株の株式申込証二通を交付せよ。
二、原告と被告蓬莱鉱業株式会社との間において、原告が別紙第二目録記載の株式について株主権を有することを確認する。
三、原告と被告東肥産業株式会社との間において、原告が別紙第三目録記載の株式について株主権を有することを確認する。
四、被告東北肥料株式会社は原告に対し、別紙第二及び第三目録記載の株券を引渡せ。
五、参加人内藤英雄は原告に対し、別紙第四及び第五目録記載の株券を引き渡せ。
六、原告のその余の請求を棄却する。
七、訴訟費用は被告等及び参加人内藤英雄の負担とする。
八、この判決は、原告において、被告東北肥料株式会社に対し二十万円の担保を供するときは第四項に限り、参加人内藤英雄に対し二万五千円の担保を供するときは第五項に限り、仮に執行することができる。
事実
一、原告の請求の趣旨
(一)、(1) 原告と被告東北亜鉛鉱業株式会社との間において原告が別紙第一目録記載の各株式につき株主であることを確認する。
(2) 同被告は原告に対し右株式につき原告に名義書換をなし、且つ株主名簿にその旨記載せよ。
(3) 同被告は、原告に対し昭和二七年三月五日開催の取締役会決議に基き発行する新株中未発行の七万六千株につき原告が新株引受権を有する者として商法第二八〇条ノ五第一項の通知(原告が額面五十円、発行価額五十円の新株八万株につき引受権を有する旨竝に判決確定の日から三十日以内に株式申込をなさざるときの権利を失う旨の通知)をなすと共に、株式申込証弐通を交付せよ。
(二)、(1) 原告と被告蓬莱鉱業株式会社との間において原告が別紙第二目録記載の各株式につき株主であることを確認する。
同被告は原告に対し右株式につき原告に名義書換をせよ。
(2) 原告と被告東肥産業株式会社(旧秋田殖産株式会社)との間において原告が別紙第二目録記載の各株式につき株主であることを確認する。
同被告は原告に対し右株式につき原告に名義書換をせよ。
(三)、(1) 被告東北肥料株式会社は別紙第二目録及び第三目録記載の各株券を、引受参加人内藤英雄は別紙第四及び第五目録記載の各株券を原告に引き渡し、且つ原告に名義書換をせよ。
(2) 前号引受参加人に対する請求が認められないときは、被告東北肥料株式会社は東北亜鉛鉱業株式会社株式四千株の株券を、被告阿部直之は同会社株式参千株の株券を、被告久保祐三郎は同会社株式壱千株の株券を原告に引き渡し、且つ原告に名義書換をせよ。
(四)、訴訟費用は被告等の負担とする。
との判決並に株券引渡を求める部分につき仮執行の宣言を求める。
二、請求原因
(一) 原告は、昭和一一年中東北興業株式会社法(同年法律第一五号)によつて設立された特殊会社である。
(二) 原告は昭和二六年三月一〇日その所有にして且つ名義に属する被告東北亜鉛鉱業株式会社(以下東北亜鉛と略称する。)の株式(額面五〇円)四万株(別紙第一目録記載)を被告東北肥料株式会社(以下東北肥料と略称する。)に代金一株について八〇円の割合、合計三二〇万円で譲渡し、代金及び同株券の授受を了した。
(三) 右株式譲渡契約には原告において監督官庁の認可を得ることができない場合は同契約を無効とする旨の特約が附されているが、これは、原告が前記の通り特殊会社である性質上、東北興業株式会社法第二条、昭和一一年一二月一日内閣東発甲第二四号東北興業株式会社業務に関する命令書第九条により、財産の処分をするには監督官庁の認可を得なければならないとされている為附されたものであつて、右認可を条件として同契約の効力を発生せしめ、従つて認可がない間は、右株式の株主権はなお原告に保有され、右認可申請が却下されたときは以後永久に契約自体を無効とする停止条件を定めた特約である。仮りに右特約が停止条件を定めたものでないとしても右認可申請が却下されたときは契約が無効となり、株主権は当然に原告に復帰する旨の、認可申請の却下を条件とする解除条件を定めたものである。
(四) 原告は右株式譲渡契約後の昭和二六年三月一九日同契約の認可申請を監督官庁である建設大臣に提出したが、同年七月三〇日同申請は却下された。
(五) 然るに、右株式については、被告東北肥料が昭和二六年三月三一日別紙第二目録及び同第四目録記載の二万四百株を被告蓬莱鉱業株式会社(以下蓬莱鉱業と略称する。)に、別紙第三及び第五目録記載の一万九千六百株を被告東肥産業株式会社(当時の商号秋田殖産株式会社以下東肥産業と略称する。)にそれぞれ譲渡したものとして、前記認可申請却下の日の三日後である同年八月二日その旨の名義書換がなされ、次で同年一一月三〇日被告蓬莱鉱業が右譲受株式のうち別紙第四目録記載の株式三千株を被告阿部直之に、被告東肥産業が同じく別紙第五目録記載の株式千株を被告久保祐三郎にそれぞれ譲渡したものとして、その旨の名義書換がなされ、更に、昭和二八年六月二五日被告阿部が別紙第四目録記載の株式を、被告久保が別紙第五目録記載の株式を参加人内藤英雄にそれぞれ譲渡したものとして、その旨の名義書換がなされ、現に同参加人において右株式四千株の株券を所持し、その余の別紙第二目録及び第三目録記載の株券は被告東北肥料において現に所持している。
(六) 然しながら、原告及び被告東北肥料間の前記株式譲渡契約は前記認可申請却下により特約による停止条件不成就が確定したのでその効力は遂に発生することなくして終つたものであるから、前記四万株は、依然として原告に属するといいうべく、仮りに右特約が前記のような解除条件を定めるものであつたとしてもその条件が成就したので、その認可申請却下の日である昭和二六年七月三〇日同契約は無効となり、本件四万株の株主権は当然原告に復帰したのである。而して被告東北肥料と被告蓬莱鉱業、及び被告東肥産業との間、被告蓬莱鉱業と被告阿部との間、被告東肥産業と被告久保との間、被告阿部及び同久保と参加人内藤との間の前記各株式譲渡行為は、いずれも、次の理由によつて、偶々昭和二六年七月一日施行された商法の一部を改正する法律(昭和二五年法律第一六七号)により株式取得者の保護が著しく強化されたのに乗じ、第三者の為株式の即時取得を偽装して原告の右株主権を失わしめようとする通謀に基く仮装の行為であり、仮にそうでないとしても被告蓬莱鉱業、同東肥産業、同阿部、同久保及び参加人内藤はいずれも前記経過によつて本件株式が原告の権利に属することを知つて右各株式を譲り受けた者であつて、いわゆる悪意の取得者に該当するものであり、被告東北亜鉛も又右事情を知り右被告等及び引受参加人と通謀して仮装的に、仮りにそうでなくても右事情を知り悪意で前記各株式の名義書換をした者であるということができる。
(七) 而して、被告東北亜鉛を除くその余の被告等及び参加人間の前記各株式取得行為並びに被告東北亜鉛がなした右各株式譲渡に伴う株式名義書換が前記の通り通謀による仮装のもの又は悪意によるものであることは、
(1) 被告東北亜鉛は昭和一六年一月原告及び訴外帝国鉱業開発株式会社の各半額出資により設立され、本件株式は原告の出資に係る全株式四万株に当るものであり、同被告の本店は被告東北肥料の東京事務所内にあり、工場は同被告秋田工場に隣接していること、昭和二六年及び昭和二七年頃、被告蓬莱鉱業及び被告東肥産業の代表取締役は被告東北肥料の元総務部長松島純治が兼任し、その他の取締役及び監査役も多く同被告の役員が兼任し、被告東肥産業の全発行済株式五万株、被告蓬莱鉱業の発行済株式四万四千株中一万四千六百五十株を被告東北肥料において所有し、同被告は被告蓬莱鉱業の製品である硫酸を一手に買い受け、被告東肥産業をして自己の秋田工場内に事務所を設けさせて製品の販売に当らせ、被告久保は被告東北肥料の社長種田徳太郎と懇意の間柄で同会社の株主、被告阿部は被告久保と懇意の間柄であること。
(2) 参加人内藤は昭和二二年以来訴外光興業株式会社の常務取締役であり、同会社は、被告東北肥料の株主でその製品の大口元売商社であること。
(3) 被告東北肥料は前記帝国鉱業開発株式会社出資に係る同会社所有の被告東北亜鉛の株式四万株が昭和二五年五月証券処理調整協議会から同被告従業員に払下になるに当り、その払下代金全額を融資してその株券を担保に取り、同年八月にはその株式名義を自己会社の幹部社員等の名義に書き換え、次で同年十二月社長種田徳太郎を被告東北亜鉛の社長に就任せしめ、その他の取締役及び監査役の多数をも両社に兼任せしめ、その前後から両社の合併を強く希望し、原告の利益を代表して被告東北亜鉛の取締役となつていたが右合併に反対意見を持つていた金子千尋を原告及び被告東北肥料間の前記株式譲渡契約に関する監督官庁の認不認可未決定中である昭和二六年六月一八日その意に反して辞任せしめる等、かねてから被告東北亜鉛の実権を掌握することを図つていたこと。
(4) 昭和二六年三月三一日被告東北肥料は、被告蓬莱鉱業及び被告東肥産業に対し本件株式を譲渡したことになつているが、その譲渡代金はいずれも現実に授受されたことなく、被告東北肥料の仮払名義となつており、而も右両譲受会社の当時の営業報告書に右譲受株式の記載が明確にされていないこと。
(5) 昭和二六年一一月二〇日被告蓬莱鉱業は被告阿部に前記株式三千株を、被告東肥産業は被告久保に同千株を譲渡したことになつているが、その譲渡代金も現実に授受されておらず、被告東北肥料において立て替え、被告阿部、同久保に対する貸金勘定として処理していること。
(6) 被告東北肥料が既に被告蓬莱鉱業及び被告東肥産業に本件株式を譲渡した後である昭和二六年五月一八日、同株式の株券全部が被告東北肥料の訴外株式会社日本興業銀行に対する債務のため担保として同銀行に差し入れられており、同年八月二日一旦同銀行から引き出されて被告蓬莱鉱業及び同東肥産業のため前記株式名義書換がなされた上再び右同一債務のため同銀行に差し入れられ、更らに同年十一月中右株券のうち四千株分(別紙第四及び第五目録記載)が引き出されて被告阿部及び被告久保のため前記株式名義書換がなされた上再び前同様担保のため同銀行に差し入れられ、次で昭和二八年六月頃右四千株の株券が再び同銀行から引き出されて前記の通り被告阿部及び被告久保から参加人内藤に譲渡の形式がなされたこと。その後昭和二八年九月一六日原告において右銀行に対し当庁昭和二八年(ヨ)第六七四四号仮処分決定を得て別紙第二及び第三目録記載の株券について占有移転禁止の仮処分をなし、その後昭和二九年(ワ)第五八五九号訴訟事件を以て右株券の返還訴訟を提起したところ、同銀行においては訴訟に介入することを避けて右株券についての担保権を放棄し同株券を被告東北肥料に返還し、目下同被告においてこれを所持していること。
(7) 原告及び被告東北肥料間の本件株式譲渡契約について監督官庁の認可を得るため同被告の常務取締役加藤金治は担当官に再三陳情したが、昭和二六年七月三〇日遂に同認可申請は却下され、当時同被告及び被告東北亜鉛の代表取締役であり、被告東肥産業の取締役会長でもあつた種田徳太郎は右却下の事実を知つていたこと。
等により極めて明白である。
(八) 故に被告東北亜鉛を除くその余の被告等及び参加人は本件株式について株主権を取得するに由なく、被告東北亜鉛に対しても原告は右株式について現に株主名簿上の名義を有しないが株主として対抗し得るものであるから、現に原告の右株主権を争う被告東北亜鉛に対しては同株式全部について、被告蓬莱鉱業に対しては別紙第二目録記載の株式について被告東肥産業に対しては別紙第三目録株式について、原告が株主権を有することの確認と原告名義への名義書換とを求め、現に株券を所持する被告東北肥料に対しては別紙第二及び第三目録記載の参加人内藤に対しては別紙第四及び第五目録記載の各株券の引渡を求め、且つ、同各株式について原告名義に名義書換を求める。
(九) 被告東北亜鉛は昭和二六年一一月二七日の株主総会において発行株式数を従来の八万株から三二万株に改め、次で昭和二七年三月五日の取締役会において新株式(普通株式、額面一株につき五〇円)十六万株発行の決議をなし、同決議において、定款の定に従い、同年四月五日午后四時現在の株主に対し、旧株一株について新株二株の割合で割り当てること、普通株式発行価格、申込証拠金共に五〇円、申込期間同年五月一日から同月一四日まで、払込期日を同月一六日として発行することを定め、右払込期日において別紙第四及び第五目録記載の株式に対する割当株式を含む八万五千六百株の新株発行をしたが、別紙第二目録及び第三目録記載の株式に割り当てられる新株式七万二千株についてはまだ株式の発行をしていない。
(一〇) 従つて、原告は、その有する別紙第二及び第三目録記載の株式の株主として、右(九)記載の取締役会決議に基いて新株の割当を受ける権利即ち新株引受権を有するので、改めて商法第二八〇条の五第一項に定める通知及び一般取引界の慣例にしたがい、所要の株式申込証二通の交付を求める。而して右割当通知書に基いて株式の申込をなすべき期日は、商法第二八〇条ノ五第一項の趣旨に照し、本判決確定の日から三〇日以内とすべきである。
(一一) 原告及び被告東北肥料間の前記株式譲渡契約の無効により、同被告は当然別紙第四及び第五目録記載の株券を原告に返還すべき債務があり、又被告阿部、同久保も前記のとおり仮装行為をなした者又は悪意の取得者として別紙第四又は第五目録記載の株券を回収して原告に返還すべき債務を有する。従つて参加人内藤に対する原告の本訴請求が若し容認されないときは、被告東北肥料、同阿部、同久保において右返還義務を果すべきであるところ、その返還すべき株券は、株式の代替性からして必ずしも別紙第四及び第五目録記載のものに限定されることはなく、被告東北亜鉛の株券であれば他のものでも右義務の履行として差支えなく、又可能であるから、被告東北肥料に対しては四千株の、被告阿部に対しては三千株の、被告久保に対しては千株の被告東北亜鉛の株式の株券の引渡及び該株式につき原告の為にする名義書換を予備的に求める。
三、被告等及び参加人の答弁
(一)、原告の請求を棄却するとの判決を求める。
(二)、被告東北亜鉛は原告の請求原因事実中(一)、(二)、(五)、(七)の(1) 、(2) 、(5) 、(6) 及び(九)の事実を認めるが、(七)の(6) 及び(7) の事実は否認する。その余の事実は知らない。
被告東北肥料は原告の請求原因事実中(一)、(二)、(五)、(七)の(1) 、(2) 、(5) 、(6) 及び(九)の事実並びに(三)のうち株式譲渡契約に原告主張のような特約文言があることは認めるが、同特約文言の趣旨及び原告の請求原因事実中(六)、(七)の(6) 及び(7) の事実は否認する。その余の事実は知らない。
被告蓬莱鉱業、同東肥産業、同阿部及び同久保は原告の請求原因事実中、(一)、(五)、(七)の(1) 、(2) 、(5) 、(6) 及び(九)の事実は認めるが、同(二)、(三)、(四)、(六)、(七)の(3) 及び(7) の事実は不知、被告東北肥料と被告蓬莱鉱業、同東肥産業との間、被告蓬莱鉱業と被告阿部との間、被告東肥産業と被告久保との間、被告阿部、同久保と参加人内藤との間の原告主張の各株式譲渡契約が虚偽仮装のものであること又は各譲受人が悪意の取得者であることを否認する。
(三)、被告東北肥料は次の通り抗弁を述べ、その他の被告等もその答弁が仮りに容認されない場合には予備的に被告東北肥料の同抗弁を援用すると述べた。
(1)、原告及び被告東北肥料間の本件株式譲渡契約における原告主張の特約文言は、監督官庁に対する体裁上の形式に過ぎずいわゆる例文であつて、当事者双方を拘束する効力を有しない。(2) 、仮りにそうでないとしても、原告は監督官庁の右契約認可を得るよう誠意を以つて努力すべき責任を有するものであるところ、原告はその努力をすることなく却つて認可申請が却下されるように運動した事実があり、その結果同却下を招いたのであるから、信義誠実の原則上からも原告は右特約の効力を主張し得ない。(3) 、仮りにそうでなく、原告が右特約を有効に主張し得るとしても、同特約の趣旨は停止条件を定めるものではなく、右契約の認可申請却下を解除条件とする趣旨と解すべきである。従つて、右株式譲渡契約は、その成立の日である昭和二六年三月一〇日その効力を発生したものであつて、同契約の認可申請が同年七月三〇日却下されて解除条件が成就し、同契約の効力が無効に帰したとしても、一旦有効に移転した株主権の帰属に直ちに影響を及ぼすことなく、原告は単に譲渡契約の無効の効果として原状回復を求めるため右被告に対して譲渡株式の返還請求権を取得するに過ぎず、同株主権は当然に原告に復帰するものではない。故に原告は、右契約が失効したことを主張するのみでは直ちに右株主権者であると主張することはできない。而して被告が有効に右株式を取得している間の昭和二六年三月三一日被告蓬莱鉱業、同東肥産業に、次で同上両被告から順次被告阿部、同久保及び参加人内藤に原告主張のように各株式が譲渡されたのであるから、右各株式譲渡はいずれも有効で、各譲受人は適法に同各株式を取得しているものである。(4) 、仮りに被告東北肥料が有効に右株式を取得することなく、又は解除条件の成就によつてその取得が無効に帰したとしても、同被告から順次同株式の各一部を譲り受けた被告蓬莱鉱業同東肥産業、同阿部、同久保及び参加人内藤はいずれも善意の取得者であり、被告東北亜鉛は、悪意又は重大な過失なくして、他の被告等の為に株式の名義書換をしたものである。以上の各事実は次の事情からも明である。
(1)、被告東北亜鉛の主工場である秋田市茨島工場は、被告東北肥料の工場敷地を無償で借り受け、その受電設備、貨車引込線、工場用水引水路、修理工場、厚生施設等を利用し、経営、技術及び資金はいずれも同被告会社の援助を受け、製品である稀硫酸全量を同被告に売渡し、同被告に依存しなくては存立し得ない関係にあり、両被告会社はやがて合併すべき必然性を有していたこと。
(2)、被告東北亜鉛が昭和二四年工場建設資金を復興金融金庫から借り受けるに当り「可及的速かに東北肥料と合併すること。」という条件を附せられ、これに基いて昭和二五年五月両社合併に関する基本契約が締結され、その合併条件の交渉中、東北亜鉛の発行済株式数のうち半数の株主である原告において恰も北上川開発事業等のため資金を必要としたところからその有する全株式即ち本件の四万株を被告東北肥料に譲渡してその後に両被告において合併条件を定めてその手続を進めるよう申入れがあり、こゝに原告主張の本件株式譲渡契約が締結されたものであること。
(3)、従つて右株式の譲受により被告東北亜鉛及び被告東北肥料は実質的に合併の実を挙げたのであつて、このことは事情を知る何人も怪しまず、監督官庁もこれに反対することは考えられなかつたのであるが形式上例文として前記特約文言が契約に附され、代金及び株券の授受も契約成立と同時に履行され、関係者は監督官庁の認可を条件とすること、同契約の認可申請が却下されること、それによつて契約の効力に影響が及ぶこと等全く考慮していなかつたこと。
(4)、以上のように被告東北亜鉛及び被告東北肥料の合併は既定の事実となつていたので、被告東北肥料においてその取得した右株式をそのまゝ保有するときは合併の暁自己株式の取得となるおそれがあるので、何等の他意なく被告蓬莱鉱業、同東肥産業に原告主張のとおり、夫夫譲渡したものであること。
故に、原告は被告等に対し本件株式について株主権の確認、名義書換又は株券の引渡を求めることはできない。
(四)、次に仮りに、原告は、本件株式について株主権を有するとしても、被告東北亜鉛に対してこれを主張するには、その主張の株主権を化体する株券を呈示すべきであつて、その株券の所持を回復し、適法な所持人であることの証明をすることもなく、その主張の株主権の確認及び名義書換を求めるのは失当である。
(五)、原告は、その主張に係る被告東北亜鉛の新株割当基準日である昭和二七年四月五日にはその主張の株式について株主権を有せず、少くとも同日までに正当な手続を経て同被告の株主名簿上株主としての名義を有していないのであるから、新株引受権を取得せず、これに新株を割り当てる方法なく、新株の発行は一個の取締役会決議に基いて一体として行われる手続であるところ、右決議に基く新株引受の申込及び払込の期日は既に過ぎ、同日までに有効に引受及び払込がなされた新株八万五千六百株を以て新株発行手続が完了し、資本の額及び発行済株式の総数の変更登記を了しているから、原告の本件新株割当に係る請求には如何なる意味からも応ずることはできない。
(六)、参加人内藤は、原告の請求原因事実中、原告主張の日にその主張の日にその主張の株式を被告阿部及び被告久保から売買によつて取得しその旨の名義書換を受け、現に同株券を所持することは認めるが、同売買が仮装のものであること又は参加人が悪意の取得者であることを否認する。その余の事実は全部知らない。参加人は悪意又は重大な過失なくして右株式を譲り受け有効に同株式を取得したものであるから原告の請求に応ずることができない。
四、被告等の答弁に対する原告の主張
(一)、被告等の主張事実中原告の主張事実に反する部分を否認する。
(二)、原告及び被告東北肥料間の本件株式譲渡契約が仮りに被告等主張のような解除条件附のものであつて、同被告から順次参加人になされた各株式譲渡契約が通謀による仮装のものでないとしても、被告蓬莱鉱業、同東肥産業、同阿部、同久保及び参加人内藤の各取得はいずれも前記の通りの事情よりして前者の無権限につき悪意又は重大な過失があるものといふべきであるから右解除条件の条件成就の効果を受けるものであり、而も同効果によつて当然右株主権は原告に復帰し、単に契約上の効力として株主権回復の請求権を取得するものではなく、又右原告に復帰した株主権に基いて現に権原なくして所持する被告東北肥料及び引受参加人内藤に対して同株主権を表象する株券の引渡を求め得るものである。
(三)、いわゆる株金全額払込制と授権資本制とを採用している現行法の下において、一つの取締役会決議による新株発行はその全部が一体として行われることを原則とするも、場合によつては必ずしもそうでなければならないものではない。即ち発行予定新株式の一部について発行手続を停止することを裁判所の仮処分によつて命ぜられたような場合には、先ず他の部分についてのみ発行手続を進め、後右命令の効力の喪失するのを俟つて発行を停止された部分の手続を進めることも可能且つ適法である。本件の場合別紙第二及び第三目録記載の株式について昭和二七年四月四日原告申請の当庁昭和二七年(ヨ)第一、三四一号仮処分決定によつて新株発行が停止されたが、もとより同部分についても終局的に新株発行手続を禁止又は無効とされているものではないから、被告東北亜鉛は原告に対し、本訴の確定により改めて株式申込期日等を定めて割当の通知をなし、且つ、株式申込証を交付して前記取締役会の決議に基く新株割当の義務を履行すべきである。
五、立証<省略>
理由
一、原告及び被告東北肥料間の株式譲渡契約及びその効力
原告から被告東北肥料に原告主張に係る株式四万株(別紙第一目録記載)を譲渡する旨の契約が昭和二六年三月一〇日成立したことは、被告東北亜鉛及び被告東北肥料に対する関係では当事者間に争なく、その他の被告等に対する関係では成立に争がなく、参加人に対する関係では証人浜田幸雄の証言により成立を認める甲第七号証の一によつて明であつて、同日右契約に定める代金三二〇万円の支払(内三六一、三八五円は、当事者間の合意で被告東肥産業に対する原告の買掛債務の弁済に充当された。)と引換に右四万株の株券が被告東北肥料に引き渡されたことは、被告東北亜鉛及び同東北肥料に対する関係では争なく、他の被告等に対する関係では成立に争なく、参加人に対する関係では証人笠井重光の証言により成立を認める甲第二〇号証並びに同証言、証人宮本実(第一回)及び同加藤金治の各証言によつてこれを認める。
右契約に「監督官庁の認可を得ることができない場合は本契約は無効とする。」との特約か附されたことは、被告東北肥料に対する関係では当事者間に争なく、他の当事者に対する関係では、前掲甲第七号証の一の記載によつて認めることができる。そこでこの特約の趣旨及び効果について検討するに、東北興業株式会社法(昭和一一年法律第一五号)第一七条、第二二条、建設省設置法(昭和二三年法律第一一三号)第三条第四号、証人中田政美、同渋江操一の各証言により成立を認める甲第七号証の二、右各証言、証人高田賢造、同浜田幸雄、同加藤金治、同笠井重光、同高梨勇及び同宮本実(第一、二回)の各証言並びに被告東北亜鉛代表者松田正雄及び被告東北肥料代表者種田徳太郎の各本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、被告東北亜鉛は当初原告主張二、(七)の(1) ような経緯によつて設立され、その後同被告と被告東北肥料とは被告等主張三、(三)の(1) ように施設、技術、金融、取引及び経営上密接な関係を結び、且つ両社合併の基本契約を締結して、両社は共通の利害を持ち、取締役等人事の交流をなし、合併を目標とする営業方針を継続して来たこと、被告東北亜鉛の発行済株式数の半数を有する原告会社は、大株主として、同被告の右合併方針に賛同していたが、右両社合併の条件については必ずしも被告東北肥料との意見の一致がなかつたところ、終戦後の原告会社の経営状況の変動及び事業方針の変更から順次その投資会社の持株を処分し来たつた折でもあり、昭和二六年に至りむしろ被告東北亜鉛の本件株式を被告東北肥料に譲渡することによつて右両社合併に関する利害を調整し同時に合併を容易ならしめることを良策として、原告及び被告東北肥料間の本件株式譲渡契約が締結されたが、同契約は原告及び右両被告間においては三者間の関係の極めて自然な発展の結果であつたこと、及び、然しながら、原告会社は法律に基く特殊会社であつて、その業務については政府の監督を受け、その持株等財産の処分については建設大臣の認可を受ける必要があり、当然本件株式譲渡についても同官庁の認可を必要とするところから、同契約には前記特約が附され、被告東北肥料の契約担当者は同認可の成否について一沫の危惧の念を抱いたが、従前の例に照し、認可申請が却下されるようなことのないことを期待して同契約書に調印し、直ちに前認定の通り代金及び株券の授受を了し、同被告代表者もその頃原告総裁の右認可を得ることに責任を以つて努力する旨の言明に信頼を寄せ、原告総裁も当時右認可申請が却下されることを深く懸念していなかつたこと等を認めることができ、これ等の事情を考慮すれば、右特約は、監督官庁の認可を得ない間は同契約の効力を生ぜしめない趣旨であつたというよりは、むしろ、同契約の効力を直ちに生ぜしめて当事者双方履行をするが、右認可を得られない場合にはこれを無効とする趣旨で締結されたものというべく、したがつて特別の事情のない限り、同契約の監督官庁による認可申請却下を解除条件とする約款であると解すべきである。政府の監督下にある会社が、監督官庁の認可を必要とする行為をするに当り、予めその認可を得ることなくその不認可を解除条件として同行為をすることもあり得ることであつてこのようなことは措置妥当を欠くとの批難なきを保し難いけれども強ち監督命令を無視したものとはいい得ない。
被告等は右特約はいわゆる例文に過ぎないと主張するが、重要な国策会社である原告会社が法律に基く監督官庁の監督命令を無視することは通常はあり得ないことであるし、被告等の立証を以つては右主張の事実を認め難く、却て被告東北肥料の契約担当者及び代表者は当時監督官庁により右認可申請が却下される場合について一沫の不安を抱いたが原告総裁等の言明により認可を得られることを期待していたことは前認定のとおりであるから、同契約当事者が前記約款に従う効果意思を全く欠いていたものとはなし難い。
被告等は又、原告において右認可を得るため努力すべき義務に違反していると主張するが、原告において右認可を妨げるような行為をした事跡は被告等の全立証によつても認め得られず、却て成立に争のない甲第七号証の三並びに証人中田政美、同渋江操一及び高田賢造の各証言によれば、原告総裁及び被告東北肥料取締役加藤金治等の右認可方の陳情にも拘らず監督官庁独自の見解によつて遂に昭和二六年七月三〇日同認可申請却下の命令が発せられたことが認められるから、被告等のこの主張は採用の余地がない。
従つて、原告及び被告東北肥料間の前記株式譲渡契約はその解除条件の成就により昭和二六年七月三〇日無効になつたものである。
二、被告東北肥料から参加人に至る各株式譲渡行為
本件株式に関する原告主張一、(五)の各譲渡行為及び各名義書換は、被告等の関係では争のないところであり、参加人の関係ではこの被告等の自白と参加人内藤が被告阿部、同久保から原告主張の株式合計四千株を譲受けてその旨の名義書換を了したことを認めることとに徴し、これを認めるに十分である。
原告は右各株式譲渡行為は、いずれも、原告及び被告東北肥料間の前記株式譲渡契約が無効に帰したことにより、原告が本件株式について権利を回復することを妨げるためになされた仮装の行為であると主張するけれども、原告の立証によつては未だこれを認めるに足る資料を得られない。
そこで右各株式譲受人等が原告主張のような悪意の取得者であるか、否かを見るに、
(1) 前認定のとおり、被告東北亜鉛及び被告東北肥料は昭和二四年頃以来密接な関係を以つて特に昭和二五年頃以降は合併を目標とし共通の利害を以つて営業をなし、取締役等役員人事の交流をなして来たこと。
(2) 被告東北肥料、同蓬莱鉱業、同東肥産業、同阿部、同久保及び参加人内藤の各相互間の関係に関する原告主張二、(七)の(1) 、(2) 、(5) 及び(6) の事実は被告等において認めていること。
(3) 右(2) の被告等の目白と、被告等において成立を争わず、これによつて参加人内藤の関係においても真正に成立したと認める甲第五号証、同第六、第一六、及び第一八号証の各一乃至三、同第一七号証の一乃至四、同第一九号証の一、二、証人渋江操一、同加藤金治、同大野朝夫(第一、二回)、同宮本実(第一、二回)の各証言並びに被告東北肥料代表者種田徳太郎及び被告東北亜鉛代表者松田正雄の各本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によれば右被告等において自白する(2) の事実が参加人内藤との関係においても認められ、被告東北肥料と被告蓬莱鉱業及び同東肥産業との間、被告蓬莱鉱業と被告阿部との間、被告東肥産業と被告久保との間の各株式譲渡代金はいずれも現実に授受されることなく、被告東北肥料の仮払金又は立替金勘定で処理されていたこと、参加人内藤の前記株式買受代金は前認定の訴外光興業株式会社からの立替払により支払われ、同会社は被告東北肥料の株主で且つ月間約六百万円の取引高を有する同被告製品の大口元売商社であること、参加人内藤の前記株式譲受に係る代金及び株券の授受は被告東北肥料の東京事務所において同被告の常務取締役兼経理部長宮本実の立会の下に行われたこと、原告及び被告東北肥料間の本件株式譲渡契約の前記特約については、同契約締結後も同被告取締役等(同取締役等のうちには被告蓬莱、同東肥産業の取締役等と兼任関係にある者が多数あることは前認定のとおりである。)の間においてその効力及び認可の成否について危惧の念を持ち論議されたが、同認可の時期が遅れるに及び原告会社の依頼もあり、被告東北肥料の常務取締役加藤金治も直接監督官庁の担当官に認可実現方について陳情したところ、担当官から同認可が困難である旨の説明を受けたこと
等を認めることができ、以上(1) 乃至(3) の各事実を綜合して考えると、被告等は、いずれも、原告及び被告東北肥料の本件株式譲渡契約には前記解除条件の約款が附されていたこと、同条件に係る監督官庁への認可申請は関係者の陳情にも拘らず遂に昭和二六年七月三〇日却下されたこと等をいずれも譲渡又は名義書換の当時知つており、参加人内藤も前記株式四千株を譲り受けるに当り、本件株式に関する前記各株式譲渡の経過及び本件株式の帰属に関し既に提起されていた本訴の内容の概要を知つていたものと推測し得られ、右認定に反する前記松田正雄、種田徳太郎の各本人尋問の結果は容易に信じられない。
然らば、被告蓬莱鉱業及び被告東肥産業は被告東北肥料から前記各株式を譲り受けるに当つて、同被告の有する同株式に対する権利は原告との間の前記株式譲渡契約に基く解除条件成否未定の間のものであることを知つていたものというべきであつて、このような場合にもいわゆる悪意の取得者として、前者の権利取得行為が無効に帰したときはその後の悪意の取得者と同様、前者の権利取得行為に関する解除条件成就の効果を受けるものと解すべきであり、被告阿部、同久保及び参加人内藤はその譲受に係る前記株式について前認定のような認識を有する以上悪意の取得者というべきである。
三、本件株式の株主権者
前認定のように、原告と被告東北肥料との間の本件株式譲渡契約が解除条件の成就により昭和二六年七月三〇日無効となつた以上、他に同株式について善意の取得者がない限り、その株主権は当然原告に復帰したものというべきところ、前説明のとおり、右被告から本件株式の各一部を譲り受けた各譲受人はいずれも悪意の取得者であるからその株主権を取得するに由なく、原告は右各契約の当事者に対しては本件株式の株主権者として対抗し得るものである。
被告等は、原告及び被告東北肥料間の右株式譲渡契約の無効によつては、同被告の原状回復義務が発生するのみで原告は当然に株主権を回復するものではないと主張するけれども、同契約は特定の株式の譲渡を目的とするものであるから、この契約と株券の引渡により株主権の物権的移転を生ずるものというべく、従つて同契約の無効となることによりその物権的移転の効力は当然に失われ、何ら回復の為の譲渡行為をまたず、株式は、原告に復帰するものというべく(ここに無効となつても、爾後、株式の善意取得の適用があるから、取引の安全を害する怖はない。)、被告等の右主張は容れられない。
四、被告東北亜鉛に対する原告の本件株主権の対抗力
原告は、被告東北亜鉛は、他の被告等及び参加人内藤と共謀し、原告の株主権を害する目的で右株主名義の書換を仮装的にしたものと主張するが、その立証を以つては未だ右主張事実を認めるに十分ではない。しかしながら、前記二の(1) 乃至(3) の事実を綜合すれば、被告東北亜鉛もその被告東北肥料との合併に関連し、自己の発行済株式数の半数に当る本件株式に関する原告及び右被告間の本件株式譲渡契約について、その推移、効力等につき深い認識を有していたことも容易に知り得るところであつて、右被告から順次右株式の各一部を譲り受けた被告蓬莱鉱業、同東肥産業、同阿部、同久保及び参加人内藤がいずれも前認定のような関係に立ち悪意の取得者であることも知悉していたことを推測し得られないことがなく、従つて少くとも右各株式譲受についてなされた株式名義書換はその各譲受人において適法に当該の株主権を取得していないことを知つてなされたものと認めるのを相当とする。
次に昭和二六年八月二日被告蓬莱鉱業のため本件四万株の株式のうち二万四百株について、被告東肥産業のため同一万九千六百株について前記譲渡による名義書換がなされるまで原告が株主名義を有していたことは被告東北亜鉛の認めるところであるから、その後同株式について同被告が前認定のとおり実質的株式移転の伴わないことを知つて他の被告等(東北肥料を除く)及び参加人の為に名義書換をしても、その名義書換は無効であつて、被告東北亜鉛は、これら書換前の正当な株主名義人である原告の株主権の主張に対し、これを否定し得ないばかりでなく、その請求によつて右実質上の株主権に副うよう株主名義を回復せしめる義務をも有するものである。
被告東北亜鉛は、原告が同被告に対して本件株式について株主権を主張し、名義書換を求めるには、株券を呈示し、且つ、その適法な所持人であることを証する必要があると主張するけれども、かかる主張は新に株式を取得して名義書換を求める場合においてならば格別、本件の場合のように、かねてから引き続いて有する株主権に基いてその権利を主張し、不当に抹消された株主名義を回復する方法として、名義書換を求めるときには、すでに株主権者たることの証明をすることが前提であり、株主権者たることの証明は、株券の所持のみに限定されているものではないから、この点の被告の主張は採用しない。
五、原告の株主権の確認、株券引渡及び名義書換請求
以上の説明により、原告が別紙第一目録記載の本件全株式についてその発行会社たる被告東北亜鉛に対し、別紙第二目録記載の株式についてその権利者たることを主張する被告蓬莱鉱業に対し、別紙第三目録記載の株式についてその権利者たることを主張する被告東肥産業に対し、原告に株主権の存することの確認を求める利益を有することは明である。
次に被告東北肥料が別紙第二及び第三目録記載の株券を、参加人内藤が別紙第四及び第五目録記載の株券を現に所持していることは同被告及び参加人においてそれぞれ認めるところであり、同人等は同各株券に照応する正当な株主権を有せず、又別途に原告に対抗し得る何等かの権原に基いて所持することについての主張も立証もないから、同人等に対し原告がその株主権に基いて右各株券の引渡を求めるのは正当である。
原告の被告東北亜鉛に対する本件株式の名義書換請求は、その有する株主権に基いて名義の回復を求めるものであることは前説明のとおりであつて、その回復を求める方法としては、正当な株主権の行使を妨げる形式上の株主名義の抹消を求める方法も考えられるがその回復は、株主名簿の現在の記載を実体上の権利関係に合致させることを目的とするものであるから、その抹消をしないで便宜正当な株主権に適合するよう、改めて、実質上の株主権者のために株式名義の書換をすることもゆるされると解し、原告の被告東北亜鉛に対する右株式についての名義書換の請求は許容すべきである。然しながら、中間の株式の譲渡人又は、株式名義人は株式の譲受人又は正当な株主権者に対し、実体上の関係(債権関係)に基いて株券に裏書をなし、又は株式譲渡証書を交付する義務を負う場合は格別、直接株式名義書換又は株式名義抹消に干与する方法も必要もないから、原告の被告東北肥料、同蓬莱鉱業、同東肥産業及び参加人内藤に対する前記各株式についての名義書換の請求は失当である。
六、新株割当請求権
昭和二七年三月五日右被告の取締役会において原告が請求原因(九)において主張するとおり新株発行及び新株引受権を株主に与える決議をしたことは同被告の認めるところであり、同年四月五日午后四時現在において被告東北亜鉛の株式四万株(別紙第一目録記載)につき株主名簿の記載にかかわらず同被告に対抗することができる株主であつたことは明であるから、原告はその当時本件四万株について定款の定による右取締役会の決議に基く新株の割当を受ける権利を有していたことも明である。
然るに本件四万株のうち別紙第二及び第三目録記載の株式については、同決議に基く新株発行の手続がまだなされていないことが原告及び被告東北亜鉛の間に争がないから、この部分について被告東北亜鉛に対し原告を株主として新株発行の手続を求めることができるものである。
被告東北亜鉛は、前記取締役会の決議に基く新株の発行は既にその手続を終了したから、新株割当のなかつた別紙第二及び第三目録記載の株式についても改めて新株を割り当てて発行する余地がないと主張するけれども、成立に争のない甲第二号証によつて認めうるように授権資本の枠三二万株に対し、発行済株式一六五、六〇〇株というが如く、相当数の未発行株式を存する場合には、その限度内において、前認定のように全然新株発行手続のとられていない部分については、前記株式発行の取締役会決議は、なおその効力を存続し、同被告会社は、引き続き、新株発行手続を進めることができ、新株引受権を有する原告は、被告東北亜鉛に対し新株発行手続を進めることを請求することができるものと解すべきである。
而して右新株発行手続を求めるに当つて、その方法として、商法第二八〇条ノ五第一項に定める通知及び同法第二八〇条の一四、第一七五条第一項により新株申込をなす場合に必要とされる株式申込証二通の交付(前記商法二八〇条の一四、一七五条三項及び二項の趣旨よりして会社は交付義務があると解する。)を求める原告の請求は、理由あるものというべきである。なお、右通知において、新株の申込をなし得る期日を本訴確定の日から三〇日後とすることを求める原告の請求の正当なることは、同法第二八〇条ノ五第三項が引受権者保護の為に存する趣旨に照し多言を要しない。
七、結論
以上によつて、原告の、
被告東北亜鉛に対する別紙第一目録記載の株式について株主権を有することの確認及び原告のための名義書換請求、原告が別紙第二及び第三目録記載の株式一株について新株二株の割合による新株の引受権を有する旨を含む請求の趣旨一、(3) の通知及び右新株の株式申込証二通の交付を求める請求、
被告蓬莱鉱業に対する別紙第二目録記載の、被告東肥産業に対する別紙第三目録記載の各株式について原告が株主権を有することの確認の請求及び
被告東北肥料に対する別紙第二及び第三目録記載の、参加人内藤に対する別紙第四及び第五目録記載の各株券の引渡請求
は、いずれも正当として認容し、右各被告等及び参加人内藤に対するその余の請求は失当として棄却すべきものである。
なお、被告東北肥料、同阿部及び同久保に対する原告の予備的請求は、いずれも、予備的申立の形をとつているけれども、実は、原告の請求の確実を期する為他の請求に併合された通常の申立と解すべきものであつて、上叙認定の趣旨より判断すれば、とうてい認容することはできない請求であること明白であるから、失当としてこれを棄却することとする。
訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九〇条、第九二条但書、第九三条第一項但書を適用し、全部被告等及び参加人内藤の負担とし株券引渡につき同法第一九六条第一項の規定を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川善吉 畔上英治 岡田辰雄)